2010年09月27日

Step3:ほしとつき。Step by Step)

Scene1

 いつか、みーにあの煌めく星をプレゼントするよ。
 まるで星が降ってきそうな夜。
 ふたりで彼の家の屋上で寝転び、そろって夜空に手を伸ばしていたら彼がそう言ってくれた。小学校低学年のわたしは、彼ならほんとうに星の一つや二つ取ってきちゃいそうだと思ってしまって、どうせならいちばんに輝く星がいい、と我がママを口にした。いちばんに輝く星。その本当の意味を彼は気づいてはくれなかった。

「今日って、満月なんだな」
 窓枠に肘をついて、すっかり暗くなった空を見上げていたポチが言う。食器を片付け終えたわたしは、彼の隣に並んで同じように見上げる。
 暗闇の中に、煌々と輝く月は周囲にある星の光をかき消してしまう。
「わたしは月ってわがままだからきらい」
「なんだ、それ」
「自分だけ目立とうとしてるみたいで」
 少し拗ねるような言い方になってしまったのは、きっと気のせいだ。月のようになれなかった自分を憐れんだからじゃない。
「そっか? 俺は好きだぜ。真っ暗闇のなかでも、月明かりがあれば、心細くならなくてすむ。一筋の光。たったひとつの光。そう希望をくれるから、好きだ」
 まっすぐに「好きだ」と言葉にしてくるから、思わず頬が熱くなる。わたしに言ってるわけじゃないのに。
(月よ、月の話しをしてるのよ!)
 何度も言い聞かせる。
 ほんとうは、彼が過去も名前もない自分を救ってくれたわたしのことをそう喩えてたなんて、そのときは思いもしないで。
「いつか、おまえに月をプレゼントしてやるよ」
 少し傲慢に紡がれた言葉は、あの頃よりもわたしの胸を熱くした。

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