2011年04月09日
01:始まりの朝(9)>見果てぬ夢(仮)
巴の言葉を借りれば、それこそが霧香の特殊能力になる。
「このマンションはそれを取り付けてるから、完璧気配を消していられる。で、気配が消えるってのは、存在がぼやけるってことだ。たとえ陽菜や陽子さんに尾行がついていたとしても、霧香が一緒にいるってのはわからない。白銀の部下程度じゃあ、掴めないってことさ」
「ちょっと、巴。私は尾行をつけたままにするほど、間抜けじゃないわよ」
「こ、言葉のあやです。姐さんっ!」
「だれがアネさんよっ!」
陽子に睨み付けられて焦って否定している巴を呆然と眺めながら、肩の力が抜けていくのを感じる。
「――そう。たとえ陽菜さんや陽子さんと一緒のところを見られても、遠目では誰かと一緒とは知られても特定の誰かとの認識はできません。彼らの頭の中には残らない。更に、映像として撮られても貴女の姿は映らない。ですから、しばらくは、いえ。正直に言いましょう。白銀の双頭が直々に動かない限りは、見つかる可能性が低いということです」
巴の言葉を補うように、悠貴が説明を再開してくれた。
どういった仕組みなのかは理解できないけれど、ともかく。
――見つからない。
それだけが霧香の心を照らし出す。頬が緩んでいくのを感じる。
「よかったわ」
不意に安心するような声が聞こえて顔を向けると、巴とじゃれあっていた陽子が嬉しそうに微笑んで霧香を見つめていた。
「霧香の心からの笑顔ね。もう見ることができないって思ってたから」
その言葉に、霧香の胸はぎゅっと痛み、泣きそうになる。溢れてくる切なさは、自分でももう二度と笑えないと覚悟していたから。嬉しいと思って、それで笑えて、更にそのことを喜んでくれる人がいる。なんの、含みもなく。
ずっと――、緊張を強いられ、張り詰めていた気持ちがようやく許されて、ゆっくりと解かれていくように感じることができた。
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- by 羽月ゆう
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