「も〜うい〜くつ寝る〜と〜クリスマス〜♪」
聞こえてきた歌声に、アルベルトは動かしていた手をぴたり、と止めて楽しそうに大きなツリーに飾り付けをしている少女に声を掛けた。
「アルセリア、」
名前を呼ばれてぴくり、と反応したアルセリアはにっこりと笑顔で振り向く。
「なになに、アルベルト〜♪ 手伝ってくれる気になった?!」
わくわくどきどき、と期待に満ちた瞳が向けられる。その姿に苦笑をもらして、アルベルトは肩を竦めた。
「いま片付けてる仕事を終わらせないと、クリスマスを一緒に過ごせなくなるが…、それでもいいならてつだ……」
「ダメ! いいの、飾りつけは一人でやるから、アルベルトはお仕事!」
最後まで言い終えないうちに、アルセリアがぴしゃりと言った。そうしてまた、一人飾りつけに手をつけ始める。
アルベルトは彼女の後ろ姿を見つめながら、嘆息した。
相変わらず、切り替えが早い。
それでも伝わってくるアルセリアの嬉しそうな雰囲気にアルベルトは心が温かく包まれていくのを感じながら、また書類へと視線を戻し休めていた手を動かしはじめた。
さらさら、とペン先が流れるような音とアルセリアの楽しそうな ――― けれど、どこか曲と歌詞の違う歌が部屋の中を満たしていく。
それから数時間後、ようやく書類を片付けたアルベルトは最後の仕上げにとんとん、と机の上で纏めると手近に置いていた封筒の中へ入れた。封をして、署名の刻んである印を押す。それを引き出しに閉まって、一息ついた。
ふと、飾り付けの終えた木をリビングに飾ってくると言って、出て行ったきり戻ってこないアルセリアに気づいた。それでも気配は確かに屋敷の中にあるから、心配することはなかったが。
「はしゃぎ疲れてソファででも眠ってるのか?」
苦笑を浮かべて、アルベルトは椅子から立ち上がった。
心配はないが、なんだかんだと言って自分こそアルセリアの姿が傍にないと落ち着かないのが本音だった。
「アルベルト ―――― ッ!」
部屋を出て行こうとドアの方へ足を向けたアルベルトの耳に、窓の外から声が聞こえた。
踵を返して、窓へ向かい外へ視線を向ける。
アルセリアが下の方で大きく手を振っていた。急いで窓を開ける。
「アルセリア?」
「見て、見てっ! 初雪よっ! 自然の雪! すごーいっ!」
そう言いながら、アルセリアは空へと顔を向けた。
アルベルトもその視線を追う。
ちらちらと、白い粒が舞い降りていた。それを受け止めるようにアルセリアは両手の平を空へ向けて、くるくると楽しそうに回った。
「……おいおい、転ぶぞ」
その様子を眺めて、呆れながらも口元は優しく緩む。
初めて見る雪。
初めて二人で見る雪。
アルベルトは窓枠に頬杖をついて、暫らく外ではしゃぐアルセリアの姿を愛しそうに見つめていた。
恐らくはこの幸せが永遠に続くことを思って ―――― 。