ForestLond

ある日溜りの森の中
「…………アルセリーア」
 深い深いため息をついて、アルベルトは彼女の名前を呼んだ。

「 ―――― すぅ、すぅ」
 けれど返事は寝息と化していた。

 彼は重くなるため息をもういちど吐くと、諦めたように傍にあった椅子に座る。
「ほんとに、困った奴だ」
 アルセリアの寝顔を見ながら、彼は苦笑交じりに口にした。

 たとえば、実験と称して彼女がいろんなトラブルを起こすのは、かまって欲しいからだと知ってる。時に過ぎることはあるけれど……。全てが自分のためだということも……。

「……ん、、ア…ベ……ルト」

 不意に名前を呼ばれて、彼は起きたのかと思い近づいたがそれが寝言だと気づく。
 だが、彼は驚いた。

 アルセリアの瞳から、涙があふれていた。

「きら…い……ならないで…………」

 彼女の言葉がアルベルトの胸をつく。
 アルセリアが寝ているソファの空いてるスペースへ起こさないよう気をつけながら、そっと座った。

「愛してる、アルセリア……」

 誰よりも……。
 なによりも……。
 優しく彼女の涙をすくい取ると、アルベルトはその頬に口付けを落とした。

・・・・・・・―――――

「……あれ?」
 アルセリアは、眠りから目を覚ました。

 見上げた天井は、見慣れないもので……。だけど、すぐにそこがアルベルトの執務室だと気づく。

「あ、私。いつの間にか寝ちゃってたんだ」
 ゆっくりとソファから身を起こす。
 この部屋の主はどこに行ったんだろう……。きょろきょろと視線を巡らせる。
 ふと、窓の方を向いている椅子から出ているダークブラウンの髪を見つけた。

 ソファから降りて、アルセリアは音を立てないように傍に寄って行く。
 ゆったりと椅子にもたれて、柔らかい光に包まれながら眠っているアルベルトがいた。

 普段は大人の余裕を見せるアルベルトもその寝顔は驚くほど子供っぽい。それを知っているのは恐らく自分だけで。アルセリアは微笑みを浮かべた。

「 ――― お疲れさま、アルベルト」
 そっと近づいて頬に口付ける。
 アルベルトの口元がわずかに笑みの形に緩んだような気がした。

 ふわぁ、とアルセリアは小さなあくびを手の平に零す。
 もう少しだけ……。
 床に座り込んで、アルベルトの方へ身体を持たせた。

 無意識なのか、起きているのか。
 髪を撫でるように、アルベルトの大きな手が頭に触れる。それを心地よく感じながら、アルセリアはゆっくりと目を閉じた。

 窓際で幸せな空間に身を委ねる二人を、優しい日差しが包み込んだ。