大切なこと

 雲ひとつなく、どこまでも青く澄んでいる空。照りつける太陽の熱を拭うかのように窓から吹きつけてくる心地いい風。

 日向ぼっこしてるみたい、と窓際の席で机にベターっと張り付いていた。うとうとと、眠くなってくる。次の授業って何だっけ、と思い出しながら不意に誘われるように見た窓の外。

 ガタッ、と思わず椅子から立ち上がった。その次の瞬間には、机の横にかけておいた鞄に必要な物をさっさと入れ込む。

 「ちょっと、優ちゃんっ、どうしたのっ?!」

 同級生たちが気づいて、慌てたように言う言葉も聞き流して、用事が終わったら、鞄を手に取った。

 「先生には気分悪くなったから早退って言っておいて!」
 それだけ言い残して、足早に教室を出る。教室内は他の机があったから、ぶつからないように早歩きだったけど、もうすぐ授業が始まるために廊下は人っ子一人いない。だから、心が向くまま走り出す。

 途中、次の教科担当であり、教頭先生でもある白髪混じりの初老の先生とすれ違った。

 「お、おいっ。篠原っ、もうすぐ授業が始まるぞっ!」
 「体調が悪いので早退しますっ!」
 「嘘つくな、体調悪い奴がそんなに走るかっ!」

 苦笑を零す先生を階段数歩下りて振り返る。

 「先生、私ね。今が大切。授業も大事ってわかってるけど、もっと大切なことを見つけたの。だから、今この一瞬一瞬が大切。そういえる自分が好き。大好き」

 意味不明な言葉だとわかってる。でも、教頭先生は知ってるから。そう笑えば、仕方ないな、という顔をして、頭をかいた。どうやら、笑顔を向けて大好きと言われることが気恥ずかしいらしい。それでも眩しげに目を細めて見てくれるその視線が温かいのは伝わってくる。

 「じゃあ、まった来週〜♪」
 「テスト範囲、月曜日の昼にでも聞きにこい」

 その言葉を背中で受け止めて、ひらひらと手を振った。

 恐らく、呆れたような溜息を零している先生に感謝しながら、下駄箱に向かう。靴を履き替え、グラウンドを突き抜けて、学校門の側で、最近購入したという二輪バイクに跨って、青いヘルメット被ったまま、紅いヘルメットを弄んでる大好きな人のところへまっしぐらに。







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