ぼーっと夜景を眺めながら、聞こえてくるシャワーの音に混じったメロディーに笑いがこみ上げてくる。
シャワーに入る音だけで、誰かわかるなんていうのも特技のひとつ、なんて自慢にはならないか。
ダブルベッドの端に座って、「ぜーったい寝るなよ! 寝たら問答無用!」とかなりしつこく念を押していったカイの言葉を思い出して、苦笑する。
「……寝れるはずない」
その間に何かあったら、と思うとぞっとする。
初めて肌を重ねあった日を覚えてる。同時に、いつからひとりでは眠れなくなったのかもう、思い出せない。それくらい、一緒にいることが自然だと思えた。その経験をするには、早すぎると他人はいうかもしれない。だけど、二人にとっては、自然の行為だった。
だって出会ったその瞬間から、止まることなく、二人の時は流れているから。
かちゃり、と音が鳴って浴室のドアが開いた。
「おー、起きてた。よくできました」
髪を拭きながら、上機嫌に笑って言うカイにべーっと舌を出す。
「ピアノは上手なのに、鼻歌は音痴よね」
「おまえの耳が悪いんだ」
少し照れたように反論してくる。
「だけどいっつも、その歌だね。ほんと好きだねー」
「時の過ぎ行くままにって、俺たちっぽいだろ」
「私は夢が覚めたら、が好き」
そう言うと、ぱさり、と頭にタオルがかかった。ぐっと引き寄せられる。
「 ―― 現実主義(リアリスト)」
「ロマンチスト!」
耳元で囁かれた言葉に反論する。
抱き締められるぬくもりに、胸が切なくなる。時の過ぎ行くままに、そう感傷的になれるほど、今の現実は優しくないから。
それでも、ふわりと鼻腔をくすぐる優しいシャンプーの香りに包まれて、夢への誘惑には勝てなかった。
Designed by Tole SAKURA(BOT OHA type.T)