私を月に連れてって。
そんなフレーズが脳裏に浮かんだ。カーテンを引いていない窓からは満月の光が柔らかく差し込んでいる。
腕枕をしてくれているカイの右腕から頭を少しだけ浮かせた瞬間、ぐっと強く頭を抱きこまれた。
「どこ行く気?」
「違うよ。月を見ようと思って」
そう言葉にすると、腕の力が弱まって解放される。
それを物足りなく感じながら、頭から外された手を握って、もう一度、月に視線を向けた。
「月まで行けたら、一緒にいられる?」
「おい、感傷的になんなよー」
呆れたような声で言われて、急に目隠しをされる。
「ちょっと、カイさーん」
「月まで行かなくても、俺はおまえの傍にいるだろ」
優しい声が耳朶を打つ。
「うん。そうだね」
頷く言葉が遠く聞こえる。でもそれは、と心の中で言いかけた言葉を見透かすように、カイは目を覆い隠していた手をどけて繰り返した。
「俺はおまえの傍にいる」
視線の先で、月は淡く光を放つ。
「月を見たら、この言葉をちゃんと思い出せるように、何度でも言ってやるさ」
言葉も声も刻み付けて。
月を見たら思い出せ、とその言葉は今は優しく温かく聞こえる。だけど、いつかそれは刃になって残酷に切り裂いてしまうものに変わるかもしれない。
この、心を ――― 。
「カイ」
繋がれている手は力強く握り締めてきて。
それでもやっぱり思ってしまう。
私を月に連れてって。
どこまでも、ずっと一緒にいるために。
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