2010年03月04日
前提(没ネタ)。
サイトにアップするには纏まりがつかなかったものの、とりあえず書いちゃったので更新できないときになんとなくUPしてみます。纏まった終わり方していないので、そこらへん意味不明な感じで。毎度のこと。けど毎度以下。うん。
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- by 羽月ゆう
- in 02. LostWorld没ネタ編。
2010年03月04日
サイトにアップするには纏まりがつかなかったものの、とりあえず書いちゃったので更新できないときになんとなくUPしてみます。纏まった終わり方していないので、そこらへん意味不明な感じで。毎度のこと。けど毎度以下。うん。
よって某種族の消滅を願う、そう書かれた申請書を見て指で弾く。
ここまで回ってきたことを考えると、関わる神々たちの間で散々試行錯誤されてきた結果だろうとはわかる。自分よりも経験を積み重ね、頭脳明晰な神たちが出した考えを否定するのはできないわけじゃないけれど、客観的に――というより、次期神帝として考えたときには賛成だと思えば、態々その理由を挙げる必要はないかもしれない。
「だからって、書類一枚を見てそうですかーってわけにもいかないわよね」
溜息交じりに落とすと、珍しく執務室に一緒にいるザナンがソファに寝そべったまま、面倒そうに口を開いてきた。
「……いや。その種族に関しての消滅は俺も賛成だ」
わずかに真剣な口調が混じっていることに気づいて視線を向けると、彼の目は閉じられたまま。仰向けに頭を肘掛に置いたソファに乗せて身体をゆったりと伸ばしている姿は気紛れな猫を思わせる。くつろいでいるように見えて、今は所要で出ている補佐官のシスイが戻ってくる気配を捉えたらすぐに出て行くくらいには警戒心をだしている。
「ザナン、知ってるの?」
「あたりまえだろ。今はまだ力の片鱗しか現われてねーけどな。そいつら、育って数が増えたら本能によって星ひとつぶんの生命体を滅ぼしちまうぜ。あー、ちなみにおまえの考える共存のどんな理由もこの種族に限り、通用しねぇよ」
「――へぇ」
ここまで口出してくるザナンが逆に珍しくて、好奇心が疼く。
再び書類に視線を戻して、存在する星の名前を確認しようと意識を向けた瞬間――さらりと書類を奪われた。
「あっ!」
「ユーファ。俺に余計な仕事させたくはないよな?」
しまった。
さっきの返答でどうやら何を考えているか見透かされてらしく、いつのまに移動していたのかザナンが目の前に立って机に手をつき、身を乗り出してきていた。ひらひらと、奪われた書類が目の前で揺れる。その向こうでは、有無を言わせない凄みを帯びた笑みを浮かべ、裏腹に剣呑な光を湛えた瞳のザナンの顔がある。シスイに笑顔で迫られるのも怖いけれど、これも恐ろしい。
暗に、余計なことに首を突っ込むな、との警告が伝わってくるからだ。
「首に縄をつけてほしいなら、いつでも言えよ」
更に威圧感たっぷりに言われる。シスイの場合は脅しとわかるけれど、普段冗談を言うわりにどちらかといえば有言実行タイプだ。しかもこれだけの雰囲気を前にしては絶対やる。
思わず首を振って、慌てて頷く。
「じゃあ、<誓言>として誓え。今回は大人しくしてるって」
続いて言われた言葉に、ハッと息を呑む。
丁度この書類を処理するタイミングで彼が執務室にいたのは偶然じゃない。わかっていて居座っていた。それほどにこの種族に関わってほしくないんだと理解して、素直に応じるしかなかった。面倒に思いながらも<誓言>として身を案じてくれる立場の彼を信頼しないわけがない。
「誓うわ。関わらないって」
「イー子だ。なら、さっさとサインして終わらせとけ」
ぽんぽんっと撫でるような、叩くような微妙な動きで頭を触られる。大きくかたい手のひらは、容易く包み込んでくる。くすぐったい気持ちになりながら、机の上に置きなおされた書類を見直す。
それでも、ほとんど暗記した消滅への理由を再び読みながらサインをするときには溜息が零れ落ちていた。
2010年03月28日
月神によって作り出された月は天神界の夜を殊更、幻想的に描き出す。控えめに煌く星も調和され、見上げるたびに自然と溜息が零れ落ちた。この空ひとつとっても、様々な神の力が施されている。
次期神帝――つまり、ユーファの住む西殿に造られた最も高い塔の屋上に寝転びながら、見上げた先にあった月に目を止めて天神界の夜の空を作り出している神々の力の片鱗を感じていた。
塔の下、というより西殿内を走り回って探している女官達の気配がざわざわと伝わってくる。纏わりつくままにしている精霊が、探されていることをわかっていながら動かないユーファに疑問の声を投げかけてくる。
(――いいの? いいの?)
まったくもって、いいわけがない。
神々によって、朝昼夜が描き出されてはいるが基本的にこの天神界でそういった時間の縛りはなく、それ故に夜になったら政務が終わるということもない。スケジュールでは、これから唯一神たちとの正宴(せいえん)がある。神帝を初めとする神々の交流会で、正式な伝統的行事だ。勿論、次期神帝がさぼっていいはずがない。
適当な時間になったら、きちんと顔出しくらいはしようと考えてはいるが、それまで女官に捕まることだけは避けたかった。普段から簡易衣装しか身につけないユーファを、ここぞとばかり正装を着用させようとはりきるからだ。幾重にも折り重なる繊細な模様が描かれた衣を何枚も纏わされた挙句、首飾りや耳飾、はては冠、更には隙のない化粧まで。
暑苦しい。息苦しい。重苦しいの三重苦をわざわざ味わいたくはない。
『――本来は。毎日、このような衣装を身につけて政務を行なうものなのですよ!』
身の回りの世話をする筆頭女官が、そんなぞっとするようなことを言っていたことを思い出して、月を眺めていたときとは違う溜息をついた。
ふと、近づいてくる珍しい気配に気づいて、上半身を起こし、この場所の出入り口になっている階段に視線を向ける。
やがて姿を現したのはレイラ=カルシオンで図書館の司書をしている神族のひとりだ。月の光を透かしたようなキレイな金の髪に淡い青色の瞳。優しい面差しをしている彼女は、澄んだ声とともに心を和らがせてくれる。特に彼女が作る料理が気に入っていた。
最近は時間を作っては図書館に会いに行っているし、時々は執務室まで招いてともにお茶をしたりはしている。けれど、招かれない限り西殿に足を踏み入れようとしない彼女がこの場所にいる理由が思い当たらない。
レイラは段をあがりきり、床に座り込んだままのユーファの傍まで歩み寄ると、同じように座って頭を垂れた。
「レイラ」
「――予定も入れず、会いにきてしまって申し訳ありません」
礼節を持って謝罪する姿に、相変わらず律儀だなぁと苦笑が零れそうになったが、相手は真剣だからと飲み込んで、首を振る。
「いいよ。頭を上げて。特に何かしてたわけじゃないしね」
「ユーファ様」
許可をし、ついでに肩を竦めて言うと、顔をあげたレイラにわずかに緊張を含んだ声で呼ばれた。いつも穏やかな青い目にも咎めるような光が浮かぶ。
その一瞬で、レイラが何をしにきたのか推測できてしまった。
「シスイに頼まれて、ザナンに居場所を尋ねてきたのね?」
「兄に頼まれたものを運んでいたのですが――、シスイ様が女官たちに囲まれ泣きつかれて困っているところに通りかかってしまったのです。私は着付けもできますから、着替えさせて連れてきてほしいとお願いされました」
シスイに女官軍団――。
ユーファでも敵わないところだ。レイラも巻き込まれるとは思わなかっただろう。
うーん、と唸りながら、とりあえず心を込めて謝罪する。
「ごめん、お手間をおかけしました」
頭を下げると、いいえ、とやわらかな声が聞こえてきた。仕方ないですね、と苦笑混じりの言葉に、顔をあげる。
レイラは困ったような微笑みを浮かべていた。
「ユーファ様のお気持ちもわかりますから。正装をされるときの女官方の気合は――ほんの少し、力がこもりすぎですね」
あれをほんの少し、と言っていいものか。ユーファにすれば、やりすぎでしかない。
「ですが、女官たちの気持ちもわかります。あれほど正装がお似合いなのに、滅多に着ていただけないのですから。普段から適度に飾られていれば、多少はやわらぎますよ」
それは些か楽観過ぎた意見のように思う。
最も、いつも西殿にいて政務をしているだけなら、衣装が飾り立てられようと邪魔にはならない。それを嫌だと感じるのは、ユーファの場合は単にそこから抜け出して、様々な場所へ飛び出していくからだ。次期神帝にあるまじき行為。それ故に、正装だと動きにくく感じてしまう。
「好きなように飾られて、そこに座っているだけなんて人形のようで居心地悪いでしょ」
本心でそう思っているわけでもないけれど、なんとなく。
時折、心を過ぎる想い。
「次期神帝」としてやらなければならないことは多々あったとしても、自分自身がするべきことかはわからない。さっきまで眺めていた月のように。夜を演出するために必要なものであったとしても、それが造られたものだと知っているから本当はそこになくてもいいんじゃないかと思ってしまう。
「あなたが人形なら、私もシスイ様もザナン殿も傍にいたいとは願いません。特にシスイ様とザナン殿のおふたりは天神界でも個性溢れる神です。シスイ様は唯一神を選ばれ、ザナン殿は天神界に留まられることはなかったでしょう」
ふたりを思い浮かべて、そうなったときを想像する。
神位に相応しい能力を持つシスイ。自由気ままなザナン。本来自我が強く、誇り高い神という存在は何ものにも縛られはしないはずなのに――。思うよりも、見えない鎖に絡め取られている。自らもその鎖の一端を担っていると思うと、胸が痛んだ。意図してはいなくても。
わかってはいても、シスイを補佐官に。ザナンを<誓言>にしている以上は他の誰かに弱さを見せるわけにはいかない。
「――そうだね」
喉から出かかった言葉は、レイラの優しさを想って、ただ肯定するだけのものに変わった。
やわらかい微笑みは、独りで月を見上げていたときに感じていたかもしれない寂しさを包み込む。癒されるけれど、飲み込んだ気持ちは胸にまた少し溜まっていく。
「ユーファ様?」
怪訝そうに眉を顰めるレイラに笑顔を返して、立ち上がった。
「そろそろ行かなきゃね。着替えを頼める?」
本当は自分でも着ることはできるが、もう少しレイラと一緒にいたいという気持ちがあった。飲み込んだ言葉を、胸に溜まっていく気持ちを忘れておくために。