■プロローグ■
「……彼女ですか」
ため息混じりに落とした言葉に、椅子に座り両手を組んだ先に顎を乗せていた男は頷きながら楽しそうに目を輝かせて、言った。
「可愛いだろう? なんだ好みじゃないのか?」
「それは肉親の欲目と捕らえるべきでしょうかね。まあ、確かに可愛くはありますが」
手渡された小さな肖像画に視線を落としたまま応じる。
ブロンドの長い髪に毛先はわずかにウェーブが掛かっていて、優しそうに微笑んではいるが、気の強そうな光が淡いブラウンの瞳には浮かんでいた。
「あまり貴方とは似ていませんね?」
浮かんだ疑問をそのまま投げかけると、男は眉宇を顰めた。
「彼女は父親に似たんだろう。俺もどっちかといえば、父親に似てるしな」
その眩いばかりのブロンドの髪とグリーンの瞳は明らかに、彼の父親から譲り受けたものだが、それでもどちらかといえば、と口にする男に苦笑いが浮かぶ。
「で、どうだ? 連れて来れそうか?」
男はきらきらと期待に満ちた目を向けた。
「私を誰だと思ってるんですか。女性を一人攫ってくるなど造作もないですよ」
恐ろしい内容とは裏腹ににっこりと笑って請け負う。
「誰にも怪しまれないように頼むぜ。できれば、ここで一緒に暮らしたい」
「そうですね……、それなら」
男の言葉に、思案する。ふと、名案が浮かんで自然と笑みが広がった。
「どうせですから楽しんで行いましょう」
そう言うと、男も賛同するように頷いた。