ふと動きの止まったミカエルに気づいて、セラは視線を向ける。ミカエルは訝るような視線を宙に投げていた。
「どうしたの?」
セラの問いかけに、我に返って曖昧な返事をする。
「……いや、ああ。……なんでもねぇ」
チッ、と舌打ちして目の前にそびえたつ塔を見上げた。
目を眇めてみても、何も見えない。
――― もし俺の気配が消えてもセラちゃんには言うなよ。
廊下で二人になったときに言われた言葉。
問いかけは許さないというかのように周囲の空気は重く支配されていた。
反抗しなかったのは、その目があまりにも真剣だったからだ。それでも、納得はできなかった。
「…………なんでオレなんだ?」
「他のやつらは誤魔化せるがな。お前は俺との絆が一番深いから気づくと思ったのさ」
『絆』という言葉に眉根を寄せる。
「俺は嬉しかったぜ」
不意をつくように紡がれた言葉に目を瞠った。
ぽんぽん、と頭を叩かれる。
まるでその仕草は昔のようで ――― 。
「天界を頼んだ」
そんな小さな呟きを残して、姿を消した。
気配がまるで残り香のようにミカエルを包み込む。
静まり返った廊下で独り佇みながら、自分の身体が震えるのがわかった。
「オレだって……」
……本当はずっと、伝えたかったんだ。
あんたが兄貴でよかった、と。
天地球に降りたことも、きっと理由があったってことは頭の中ではわかってたんだ。
それでも何も話してくれないことが悔しくてたまらなかった。自分に対する怒りをぶつけてた。
「いつも勝手なんだよ!」
グイッ、と腕で顔を拭う。
『天界を頼んだ』
「頼まれてやる」
恐らく最後だろう ――― あいつの頼みごと。
「ミカちゃん……」
何かを感じ取ったのか複雑な眼差しを向けてくるラファエルにニヤリ、と笑みを返して言う。
「行くぜ!」
決意をこめて、そう声をかけた。
【
Index】【
Next】