■ Silver 04 ■
ハイ、“リーダー”がそう言ってなにかを投げてよこした。
反射的に受け取った“シルバー”はそれを呆然と見る。控え室に置いてきた彼の銃だった。娼館では持ち歩くことはできないから、と“リーダー”に言われて。
「これは……」
撃て、とでも言うのだろうか ―――― ?
彼女の意図がわからずに、“シルバー”はただぼんやりとした視線を男に向けた。
「ひぃ…っ、た、たすけてくれ!! なんで俺だけ……」
すっかり酔いの覚めた男は、恐ろしさのあまり凍り付いた舌で、“シルバー”と“リーダー”に哀願する。
「たっ、、頼む、、お、俺もあいつらと、同じじゃねぇか……?!」
「確かに……。見ていたものにも罪はありますが、けれど実行したものはもっと許せませんね」
自分に言い聞かせるように“シルバー”は呟いた。
「なっ……、なんのことだよ??」
「一応、教えておいてあげますよ。僕は『Z』団で“シルバー”の称号を持つものです。そして、自殺したローリア=メレル嬢の婚約者でした」
告げられた言葉に、男は驚愕の余りへなへなと床に座り込んだ。
その男の額に彼は容赦なく、ぴたりと銃口を突き付ける。
「や、……やめてくれ!!! 頼む……っ!!」
「きっと彼女もそうやって、あなたに頼んだんですよね? でも……、あなたはやめなかった」
“シルバー”は容赦なく引き金を引いた。
うわぁあぁあぁぁっ ―――――――― 、
男の断末魔が部屋の中に響いた。
カチリ、響いた空しい音に、“シルバー”は困惑した。弾は詰めておいたはず ――――― 。
カチッ、カチカチ、、だが、何度引き金をひいても銃弾は出てこなかった。だが、“シルバー”は諦めることなく何度も、何度も引き金をくり返しひく。
何度も、何度も ―――― 。
“リーダー”はその様子を黙ってみていたが、やがて呆然としている男に出て行くよう促すと、そっと、“シルバー”の肩に手を置いた。
「なぜ、弾を ―――― ?」
彼の手の中から銃は滑り落ちた。
ぼんやりとした表情で、それでも弾を抜いていたのが“リーダー”と気づいた彼は聞いた。
「……『Z』団の“シルバー”に必要だった?」
逆に彼女は聞き返した。
ポタ、ポタ……。知らず、彼の瞳から透明な涙が零れ落ちる。
「憎しみに任せて、復讐であの男を殺してもあなたの婚約者は喜ばない」
あのまま殺してしまえば、彼は『Z』団の“シルバー”の称号を失うだろう。それは、きっとローリア嬢の望みではない。
「そんなのは……偽善です」
頭になかった。称号を失うことなど……。
そう答えながらも ――――― 。“シルバー”は思った。
あの男を憎むなど、そんな資格は自分にはない、と。政略結婚だと言い聞かせていた自分に。彼女の話しを聞くことができなかった自分に ――――――。
もし偽善だというのなら。彼女のために、とあの男を殺そうとした自分の行為こそが偽善だという思いが浮かんだ。
それは彼女の望みではない、と告げる“リーダー”の言葉を聞いて……。
――― ・・・ ―――
……許して下さい。
“シルバー”は彼女の墓に、白い花を置くとそう呟いた。
彼女が何の花が好きだったのかわからずに、とりあえず自分の好きな花を、と思って持ってきたものだ。
「今更ですね。でも……僕たちはもしかしたら、愛し合えたのかもしれない」
たとえ政略結婚とはいえ ――――― 。もう少し僕が貴女という人を見ていれば……。
きっとローリア嬢が望んでいたのは、突然の愛や優しさよりも。僕の視線だったんだろう。そう思う。
ふと、彼は明けきっていない薄暗い空を見上げた。
かすかな輝きを見せる星空に、“シルバー”は彼女の儚くも優しい微笑みを浮かべる。同時に。彼女によく似た“リーダー”のことを思い出していた。
「結局 ―――― あの人のおかげですね」
こんなにも心が軽くなったのも。ほんの少しではあるけれど……、自分に素直になることができたのも。
苦手ではなくなりました ―――― 瞳を伏せると、統帥へ向かって“シルバー”は心の中で告げた。
「ご機嫌だな」
報告書を提出しにきた彼女のどこか嬉しそうな様子に、統帥は声をかけた。
「別に……」
そうは答えたが、事実。彼女は嬉しかった。
真相を伝えると親友のリランは、最初は哀しそうな顔こそしていたが、「ありがとう……」そう言うと笑顔を浮かべてくれた。彼女の笑顔を見れただけで、ユウは動いた意味があった、と思う。
「……まぁ、いいが。しばらく君は親友とは会えないからな」
統帥の言葉にユウの表情が固まる。
「どういう意味ですか?」
「言葉のとおりだよ。仕事が山ほどあるから、プライベートな時間はなし、だ」
きっぱりと言われてユウは嫌そうな顔をする。
それでも、『Z』団統帥の言葉に逆らうことはできないのを彼女は嫌というほど知っていた。