雨のち晴れ。ときどき、嘘つき。

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  晴れ日(5)  


 耳を塞ぐような、轟音が頭上を通り過ぎた。
 同時に風がやわらかく吹き付けてきて、ふわりと浮き上がって飛んでいきそうな帽子に慌てて右手で押さえつける。
 雑多に行き交う人たちの合間をどうにか動きながら、ようやく建物から抜け出せた。ほっ、と一息ついて、空を見上げる。
 晴れ渡っている雲ひとつない、青空。
 何十時間ぶりに見るその眩しさに、目を細める。
 感慨に耽りそうになるものの、いやいやそんな場合じゃないと我に返って、教えてもらっていた道順を脳裏に思い浮かべた。もちろん、近くまでタクシーでと考えて乗り場に向かおうと、足を踏み出しかけ――。

「佳澄っ!」
 聞こえてきた声に、まさかと思って視線を巡らせる。
 ぴたりと、思わず動きが止まってしまった。

 2年ぶりに見る、睦兄。
 ほんとうに、2年間は手紙のやり取りと、電話だけで。
 会えなくて、寂しくて。声が聞きたくて、苦しくて。それでも、前に進めたのは、もう一度 ――。
 どきりと胸が高鳴る。顔を見た瞬間、これまでずっと、我慢してきたぶんとでもいうように愛おしさが溢れ出してくるのを感じた。
「――っ、どうして、ここに?」
 目の前にきた睦兄に驚きのあまり、そんな言葉をかけると、困ったように苦笑された。
 だって、内緒にしてたのに。
 せっかくだから睦月を驚かそう言ったのは、郁斗先生――今はもう先生じゃないけど――で。だから今日だとも。この飛行機だとも。知らないはずなのに。
「おまえを驚かそうって、郁斗が教えてくれたよ」
 得意げに笑う、郁斗先生の顔が浮かんで。もうっと呆れる。
 けれど、文句を言う間もなく、強い力に引き寄せられて、気がつけば睦兄の腕の中にいた。ぎゅっと抱き締められる。
「っ……?!」
「会いたかった」
 戸惑うより先に、耳元で囁かれた言葉はじんわりと胸に沁み込んで、うん、と広い背中に同じように腕を回して抱きついた。
「私も、会いたかったよ。――――」
 それから、ほんの少し勇気をだして。
 ずっと練習していた、約束の言葉を口にした。
 ちゃんと耳に届いたのか、ハッと身体を離される。驚いたように見つめてくる、睦兄のキレイな顔がたちまち笑顔になって。
「――――行こう」
 差し出された手のひら。
「うん!」
 一度離したそれを、今度は永遠に離さないと胸の中で誓って、強く握り締める。
 晴れ渡った空の下、愛する人と手を繋いでどこまでも ―― 。


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