たとえば、君に ――
03. 最後の決断
お気に入りの白いデッキチェアに座ると、付けっぱなしにしてたテレビの音が流れてきた。
今日はえっちゃんが主演のテレビドラマの記者会見がある。離婚して、すぐに再婚しても、演技力を認められている彼に影響することはなかった。
キーボードを打ちながら、言葉に詰まって一旦手をとめる。背もたれに寄り掛かって、大きく伸びをすると、遠くに海が見える。水面は眩しく煌いていて、潮風に流れていく。掴めなかった、ひかり。違う。私は、あの一瞬を閉じ込めるために、手を伸ばさなかっただけ。そう、きっとそういうこと。やっぱり、海を見るとまだ胸が時々切なく痛んでしまう。だけど、少しだけ膨らんだお腹に視線を落として、ゆっくり撫でた。妊娠三ヶ月。えっちゃんは今から親バカだ。
仕事はちゃんとするように追い出してるからいいけど、打ち上げや余計な外泊はしないらしい。脅しをかけられていると高見さんが愚痴っていた。子供部屋は女の子グッズで溢れてる。どこに赤ちゃんを寝かせるの、と言ったらもうひとつ部屋を作るかと緩みっぱなしの顔で真剣に悩んでいた。
幸せなんだと思う。
和紀に出会わなければ、見つけられなかった幸せ。
時々は思う。
たとえば、あのときって。
だけど、イマ、生きているこれが私が選んだ人生。
テレビからは、えっちゃん主演のドラマで使われる和紀の、演技とは違って、何年たってもやっぱり下手くそな歌が流れてきたところだった。
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