風に聴くセレナーデ
00. ピアノと、私とタロウ。
僕は、君が大好きだよ。忘れないで。君が笑っていると僕も嬉しいんだってこと。
忘れないで。とっても、とーっても君が大好きだってこと。
◆ 風に聴くセレナーデ ◆
いち、に、さん。ダーン。
合図と一緒に鍵盤に置かれた前足は不協和音を奏でる。小夜みたいにキレイな音は出せないけど、楽しそうに笑う小夜の姿に僕は何度も鍵盤に足を乗せた。じょうず、じょうず。手を叩く小夜は、ピアノを褒められたときと同じ顔をする。この世界には悲しみなんてなにひとつないんだって思わせてくれるその笑顔が僕はなによりも大好きで、見ていると幸せになれるんだ。
「タロウもピアノ上手になったね」
小夜が鍵盤を指で弾きながら言う。褒められてる気になって僕は胸を張った。ついでに嬉しいってことを伝えたくて尻尾も振ってみる。
「私も上手になりたいなぁ」
『小夜は上手だよ!』
僕は声高に言った。
ありがとう、にっこりと笑ってくれる小夜は、「もっともーっと上手になりたいの!」と続けた。きれいな音を奏でる小夜がもっと、もーっと上手になったらどんな音を聴かせてくれるんだろう? 時々耳を澄ませると聞こえてくる風の音のように、それはきっと優しくて僕を幸せにしてくれるに違いない。もっと、もーっと上手になった小夜のピアノの音がとても楽しみになった。
Copyright (c) 2010 Yu-Uzuki All rights reserved.
-Powered by HTML DWARF-