風に聴くセレナーデ

モクジ/モドル/

 03. 初めての喧嘩と、君の恋 

 母が亡くなって、半年が過ぎ ――
 学年もあがり、高校でもピアノの練習に本格的に力を入れ始めた。私の通う高校は音楽に特に力を入れていて、学内のコンクールで優勝すれば海外の有名な音楽大学に留学できるし、費用も全額負担で出してくれる。勿論、一年の時から参加は可能だったけれど、私は母との時間を大事にしたかったから、自分で選んで参加しないことに決めていた。期待してくれていた担当講師の先生も、今大事だと思うことを後悔のないように行いなさい、と笑って頷いてくれた。だけど、今年はなにがあっても参加することを心に決めていた。
 ピアノを見ると思い出すのは、それを弾いている母の姿で、思い出とか胸に溢れてくる母への想いとかそういうものをひっくるめて、ピアノを大切に弾いていきたいという気持ちがより強くなっていたからだ。
 父も応援してくれて、「あんまり小夜に負担かけるなって約束したんだよ」と朝ご飯は作ってくれるし、洗濯物も自分の物はさっさとしてしまうし、掃除もできるところはやってくれる。私は一緒に作るお昼のお弁当と夕ご飯、変わらずタロウの世話だけだったので、ピアノの練習を欠かす必要はなかった。
 ほんの少し、変わったのは父が朝のタロウの散歩には自分がいく、と言い出して実行しているところだ。いつだったかこっそり見ていたら、父は散歩中、タロウにやたら話しかけていた。昨日あった出来事、今朝の天気。どこに花が咲いたとか、今日はなにがあるかなーとか、日常の些細なこと。
 私と散歩中のタロウは自分のことで精一杯なのに、父と歩くタロウは父が見るところに視線をやったり、相づちをするように顔を上げ、尻尾を振ったり、時々「わんっ」なんて返事をしたり。つまるところ、いい話し相手と化していた。まるで母の代わりにつきあってくれているかのように。
 そんな一人と一匹の姿はすっかりご近所さんでも評判になってしまっていた。

『もうすぐコンクールね、期待しているわよ』
 講師の言葉に元気よく頷いて、練習室を後に教室に戻る。
 練習は上々で、自分でも調子いいことが嬉しくて自然と頬が緩んでいく。それを見られないように――といっても、廊下には誰もいなかったけれど、楽譜で顔を隠しながら歩いた。
「音無!」
 ふと、名前を呼ばれて振り返ると、同じ音楽科ピアノ専攻の同級生、斉藤司―が駆け寄ってくるところだった。
「斉藤君も個人レッスン、いま終わったところ?」
「うん。鴨居先生、きびしーの、なんのって」
 肩を竦めて、少しおどけるように言う斉藤くんに思わず笑ってしまう。隣に並んで、教室まで歩き始めた。
「調子、どう?」
「結構いいよ。コンクールまでには仕上がりそう」
「音無はそういうの、隠さないからいいよな。あっさりしてるっていうかさ」
 見下ろしてくる斉藤君の目は面白そうに笑っていて、思わず首を傾げる。
「そういうのって?」
 私の問いかけに、今度は幾分か呆れたような視線を向けてくる。言いづらそうに、あーとかうーとか唸りながら天井へとその視線を動かした。
「自分の調子だよ。ここはほら、なんだかんだで学生全員がライバルみたいなもんだろ。だから友達にだって自分の出来上がりを話す奴は少ないぜ。最悪ーっとかいって、油断させといて本番当日には最高の仕上がりで相手を蹴落とすんだーってのがさ」
「斉藤君。世の中どんなところにだって、競争世界はあるもんなんだよ。人間が生物である以上はそれは仕方のないことなんだ。人間はそうやって成長を続けるものなのだから」
「……はいはい。生物の高見先生サマサマにそっくり」
 二人がとっている一般教科の担当先生を真似たものをすぐに察した彼は苦笑いを浮かべた。けどさ、と続ける。
「だからおまえはそのワリに素直だって言ってんの!」
「そりゃね。私は誰かと競争したくて弾いてるんじゃないもの。ピアノが好きで弾いてるの。だから調子が上々ならそう言うし、悪いならそう言うよ」
 そっか、と納得するように頷きながらぽんっと頭をはたかれた。一瞬だけ触れた大きな手のひらと、見せられたやわらかな微笑みに胸がどきんっと跳ね上がる。
「……っ!」
 顔がぼっと火がついたように赤くなるのを感じながら、それを誤魔化すために頬を膨らませた。
「もうっ。なにするのよ!」
「そうだ。おまえ明日の午後、ヒマ?」
 (明日――?)
 土曜日は午前中授業――といっても担当講師との個人レッスンのみで、午後に友達との遊び予定は今のところ、なにも入れていなかった。困惑しながら頷く。それを見て、彼はほっとしたような笑顔を見せると、制服の胸ポケットから何かを取り出す。
「じゃあ、これ行こうぜ」
 差し出されたそれは、隣町にある大きなホールで開催されるクラシックコンサートの指定席チケットだった。
 驚いて、彼を見る。
「よく取れたね!これ、販売と同時に売り切れたのに」
 しかも有名楽団が行うため人気があるだけ、高校生のお小遣いで買うには少し値段が高い。
「ちょっとコネがあってさ。俺もタダで貰ったんだ。せっかくだからおまえ誘おうと思って」
「……私でいいの?」
 斉藤君の言葉にどきどきしながら、そう問いかける。今のところ、彼が誰かと付き合っているというような噂はない。好きな女の子がいるという素振りも話も聞いたことがないから、そんなふうに言われると思わず期待してしまう。顔を見合わせることはできなくて、彼の喉元に視線を向けたまま返事を待っていると、ほんの少しぶっきらぼうな声が降ってきた。
「おまえだから、誘ってんの!」
 その言葉にハッと顔をあげると、照れたように頬を赤くしてそっぽむく姿があった。いつもカッコつけようとする(学年でも確かにかっこいい男上位に入っているけど。)様子とは違って子供っぽいところに頬が緩んでしまう。
「返事は?」
「もちろん、いいとも!」
 笑顔で応じると、なんだよ、それと呆れた顔をされた。だけどすぐに笑顔になって、「じゃあ、明日な!」と先に教室へと戻っていく。その背中を見つめていると、不意に廊下の窓から風が入り込んできた。
 軽やかな風は、夏の匂いを運んでくる。今年の夏は去年より太陽の熱温度が高いらしいと今朝のニュースでキャスターが零していた。
 それでも――、楽しい思い出を沢山作れるといい。母を亡くして初めての夏。
 寂しさに呑まれないように、よしっと気合いを入れ直す。
「おーい、音無。早く来いよ、担任が来るぞ!」
 教室のドア近くで立ち止まり、振り向いた斉藤君の声にはーいと応じて足を早めた。



 朝から照りつけてくる太陽をいつもならほんの少し、恨めしく睨みつけるものの、デート日よりだと思えば快晴でよかったとわくわくする。朝ご飯とお弁当を用意してテーブルに着く。昨夜は学会があって終わった後に久しぶりに大学時代の友人と会い飲み過ぎたと夜遅く帰ってきた父は珍しく寝坊しているようで、頭まで布団を被って起こすなポーズ。庭にいるタロウに餌をやり、同時にご飯を食べて片づける。鞄を持って玄関口から寝室にいる父に声をかけた。
「おとうさーん。行ってくるから、タロウよろしくねー!」
 寝室のドア越しにくぐもった声。
 なんて言ってるかはわからなかったけれど、恐らく了承の返事だと理解して、あっと思い出したことを付け足す。
「そうだ。今日は遅くなるかもしれないから、ついでに夕方もタロウの散歩とご飯よろしくー!」
 できるだけ声を張り上げ、再びくぐもった返事があったのを確認して、行ってきまーす、と言いながら家を飛び出した。

 午前中のレッスンを終えて、斉藤君とは校門前で待ち合わせをして、すでに待っていた彼に、お待たせと声をかけバス停まで並んで歩いた。
 歩調を合わせて歩いてくれる彼の肩と触れ合うギリギリの距離に胸が高鳴る。こんなふうに一緒に歩けることが嬉しくて、恥ずかしくて、でもやっぱり嬉しい。
「コンサート終わるの、8時か9時くらいだろ。それから夕飯食って、家まで送るけどさ。音無、門限とか大丈夫か?」
「うち、門限はないよ。それに今日は遅くなるって伝えておいたし。それくらい、だいじょうぶ!」
 一緒に出かけて夕飯まで食べて送ってもらうなんて、本当にデートみたい。嬉しくて、どんなに引き締めようと思っても、気を抜けば頬が緩んでしまう。
「あ、やば!あのバスだ!急げ、音無!」
 ふと前を見ていた斉藤君が焦ったように声をかけてきた。同時に、手をつかまれてそのまま引っ張られる。
(えっ、うわ……!)
 急につかまれた手に、どきどきと胸が高鳴る。自分よりも、大きくてかたい手のひら。いつも明るく元気なピアノの音を奏でる手は思っていたよりも男らしくて。伝わってくる熱を感じて思わず、ぎゅっと握りしめてしまう。ハッと我に返って離そうとしたら、それを引き留めるように強い力で握り返された。
 一気に頬が熱を持つのを感じながら、そのまま手を繋いで走る。
「すみません!」
 バスの扉が開いて、ステップをあがり、空いている席にふたり並んで座る。ほっと息をついて顔を見合わせるとどちらともなく頬が緩んで笑みが広がった。
 落ち着いた途端、繋いでいる手が視界に入って、思わず「手が……」とつぶやいていた。だけど、離されることはなくて、「いいじゃん、このまんまで」と応じる声が返ってくる。ちらりと見れば、優しい目に見つめられていて、どきんっと胸が大きくはねるのを感じた。

 コンサートが終わってホールを出たときには、外は真っ暗になっていた。出入り口をくぐりながら、さっきまで耳にしていた音に興奮さめやらぬといった様子で斉藤君が話しかけてくる。
「なぁなぁ、あのピアノ!聞いたか?!やっぱりプロはすげぇよな!どうしたらあんな音がだせるんだ?」
「そうだよねー!それに曲の解釈も独特だった。あんなふうに弾けるなんて思わなかったなー」
 うんうん、と頷きながら同じように終わってもまだ胸に残る余韻に私も感動したままを口にする。比べられるものじゃないけれど、繊細なあの音で奏でるには、曲の解釈が意外すぎて、でも不自然にはならなかった。むしろ、深みが増して、胸に響いてきた。
「聞きにきてよかったよなぁ」
「うん。チケットありがとね!」
 ほんの少し高い位置にある彼の顔を見上げながら素直にお礼を言うと、うっすらと頬が赤くなるのが見えた。
「気にすんな。それより、メシ行こうぜ」
 ぶっきらぼうな口調は照れてることがまるわかりで、なんだかそれが嬉しくて緩みそうになる頬を引き締めながら「そうだね」と頷いて、どこで食べようかと話題を変えた。
 夕飯中もコンサートの話で盛り上がったし、学校やコンクール、話はつきなかった。あっと言う間に、今日が終わるまで残り一時間を切っていた。楽しくて、もっと一緒にいたいと思っていたけれど、流石に日付を越えるのは父を心配させそうで、しかたなく――本当に仕方なく、「そろそろ帰ろうか」と切り出した。送っていくよ、と言われて、家までの道を今度はふたりで並んで歩く。自然と、手は繋がれていた。
 沈黙が続いても二人を包む空気は優しくて、繋いだ手から伝わってくる温もりに胸がどきどきと高鳴る。
 私って、斉藤君が好きなんだなーって思いながらそっと彼の横顔を見上げた。視線に気づいた斉藤君と目が合う。恥ずかしくて、すぐに逸らしてしまうものの、なんだか幸せな気持ちになった。
「……なぁ、音無」
「んー?」
 沈黙を破って話しかけてきた斉藤君に前を向いたまま返事をすると、ほんの少し繋いだ手に力がこもったのがわかった。
「俺たち、つきあわないか?」
 思わず足を止める。一歩前に進んで、彼も止まった。
「え?」
 見上げると、振り向いた彼の目が真剣に見つめてくる。冗談じゃないことが伝わってきて、ボッとまるで顔が一気に沸騰してしまったみたいに、熱くなるのがわかった。
「えっ?えっ?私と斉藤君が?!」
 びっくりして思わずそう問いかけると、堪えきれなくなったように斉藤君が噴き出す。
「おまえ、驚きすぎ!」
 そのまま笑いだす姿に今度はムカッとなった。
「…………冗談?」
 そう訊くと、「ごめんごめん」と笑いをおさめながら―それでもまだ口元はぴくぴくしてたけど―謝って、くしゃりと髪を撫でられた。
「俺は真剣。音無が好きなんだ。だから、考えといて」
 返事は急いでないからさ、と告げられて答えを言う隙もなく、再び手を取られて歩き出す。引っ張られるようについていくうちに、自分の口元がにんまりと笑ってしまうのがわかって、できるだけ早いうちに私も彼を好きだと伝えようと、その広い背中を見ながら心に決めていた。

 斉藤君と別れて、玄関の鍵を開ける。中に入ると、真っ暗で、その違和感に首を傾げた。
「お父さん?」
 呼びかけた声は暗闇に吸い込まれていく。
 不安を感じながら、靴を脱いで玄関の上がり口にある電気をつける。淡い色の間接照明が光り、思わずほっと息をついた。
(……急患でもあったのかな?)
 電気が点いただけで、感じていた不安は薄れて、冷静になる。父が夜遅くに家にいないのは、大抵がそういう理由だ。
 リビングに入って電気のスイッチを押す。ぱぁっと明るくなって、その眩しさに目を細める。
「お父さん?」
 やっぱり気配はなくて、ふとテーブルの上に一枚の紙が置いてあることに気づいた。歩み寄って取ると、『急患があった。夜遅くなる!』そう書いてあった。
 推測が当たっていて、同時に父がいなかったことに胸を撫で下ろした。遅くなった理由を問われるのは、恥ずかしすぎる。
 意外にも緊張していたのか、急に喉が渇いて冷蔵庫に向かった。ウーロン茶を取り出して、棚からコップを取り出す。口に含みながらふと、そういえば以前は頻繁にあった急患―徹夜の看病は母が亡くなってから今夜が初めてだということに気づいた。
(心配してるんだろうな……。)
 父の何気ない気遣いを知ってしまうと、なんだかこそばゆい気持ちになる。素直に感謝の気持ちを言うには気恥ずかしいけれど、せめて母がいなくても心配だけはかけないようにしなきゃ、と改めて思ってしまう。
 ――ああ、でも今夜は楽しかったなぁ。
 コンサートはもちろん、なにより斉藤君と一緒に過ごせたことが嬉しかった。それに。
『音無が好きなんだ』
 言われたことを思い出して、一気に頬が火照るのを感じた。
「うわ、うわぁ」
 好きなひとにそう言われることが信じられない。だけど現実で。夢と現実の境にいるような、ふわふわとした奇妙な感覚。
 熱くなる頬にコップを持っていた手を押し当てる。ひんやりとした感覚が気持ちいい。それに浸っていると。

 ――わんっ!!
 不意に犬の鳴き声が聞こえてきた。

「タロウ?」
 滅多に鳴かない声を聞いて、はっと我に返り思い出す。
 父の置き手紙に――夜は遅くなる、と書いてあった。ということは。
(まさか、夜ご飯も散歩もしてない?)
 コップを台所に置いて慌てて庭に続く窓を開ける。
「タロウ?!」
 開けた瞬間、目の前に広がっていた光景に愕然となった。

 母が大切にしていた花壇――。
 そのいたるところに掘った跡があり、まだ咲き続けていた花は滅茶苦茶に散らばっていた。
 幼い頃から思い出のあるその場所は、私にとっても恐らく、二人で過ごしていたときからあった花壇だから父にとっても、大切な処で。
 だからこそ、母が亡くなった後も、水遣りや雑草掃除は欠かしたことない。タロウだってそれがわかっているかのように、その花壇には決して踏み入ることがなかったのに。

『夏はヒマワリ、秋はコスモス、冬は休んで春はチューリップ。ちっちゃな花壇でも四季を迎えられるなんてすごいねー』
 種を植えた母が隣で同じように種を植えている私を見ながら嬉しそうに笑う。
『ママー。さやは、さくらがいいなぁ』
 通っていた幼稚園の園庭に咲き誇る桜。満開の花びらが風に揺れ舞う様は、幼心にもきれいで。そう訴える私を困ったように見る。
『桜は……おっきいからなぁ。この花壇には無理よ、小夜ちゃん』
『なんでなんでー?』
 なんで、どうして、そんな疑問が泉のように湧き出ていた年齢で、教えてもらってもなお、質問する。母は慣れたようににっこり笑った。
『ママは道ばたに咲くような花が好きだからねー。小さなものに幸せを見つけることができる、小夜ちゃんにもそんな子に育ってほしいなぁ』
 どんな質問でもひとつひとつ教えてくれる。そんな母が大好きだった。そんな母の願いが込められている、大切な花壇。

「……っ、なんでっ、タロウ!」
 最初に飛び出ていたのは非難。
 声が聞こえてないかのように、タロウは花壇を掘り返している。
「やめなさいっ、タロウ!」
 声を荒げると、ふとタロウが顔を上げた。うーっ、と低い唸り声に、どきんっと胸が跳ね上がる。いままで、こんなタロウの声を聞いたことがない。
 まるで敵を見るかのような姿勢に驚きながらも、無惨な姿になっている花壇が目に入ると、ふつふつとした怒りがわきあがってきた。
 タロウに近づいて、視線を合わせる。
「なんでこんなことしたのっ!」
 ぴたりと合った瞳に、タロウは急に大人しくなってお座りをすると甘えるようにくーん、と鳴いた。怒っているのに、そんな態度が気に喰わなくて、睨みつける。
「タロウ! なにしたかわかってるの?!」
 膨らんでいる怒りは抑えきれなくて。
 くんくーん、とさっぱりわかってない顔ですり寄ってこようとする姿にいらだちが募った。
 いつもは優しく感じるタロウの毛も今日はちくちくとまるで棘のように肌を突き刺してくる。それが無性に悲しい。
 やがてタロウもぷいっと顔を逸らして、自分の小屋に戻るとお尻を向けてふせてしまった。そんなタロウの姿も珍しかったのに、自分の怒りで精一杯だった私は気づかずにただムカつくまま、「もうタロウなんて知らないっ!」そう吐き捨てて、家の中に駆け込んだ。
「……おい、どうしたんだ?」
 途中、いつのまに帰ってきたのか、怪訝な顔をする父とすれ違ったものの、なにも応じる気になれずに、黙って部屋に戻った。

 バタンとドアを閉め、寄りかかる。
 せっかく幸せな気持ちだったのにっ。
 ―――――タロウのばかっ!
 大好きな親友と分かち合おうと思っていた幸せな気持ちは悲しみへと塗り変えられ、悔しさにこみあげてくる涙をぐいっと手の甲で拭った。
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