第二章 高魔の玩具

二、高魔(3)
 公園から離れた森の中に、香穂たちの姿があった。高魔に気づかれないように気配は消していた。
「作戦成功ね、行ってしまったみたいよ」
 高魔の気配が消えたことに気づいて、深雪が肩を竦めた。
「爆発に乗じて姿を消しても、気づかれないものですね」
「我を忘れさせるくらい怒らせたからね。でも、逆に怒ると冷静になる性格のヤツもいるから下手に試して見ようなんて思わないでよ、葉月」
 苦笑を浮かべる葉月に視線を向けて、香穂は釘を刺した。成功したことは、なんでも実戦で試したがる二人の性格を香穂は把握している。
 忠告されて、深雪は不思議そうに訊いた。
「そうなの?」
「そうなったら、最悪だって覚えといてね。選べるのは「死」のみ、よ」
 さっきまでの楽しそうな雰囲気から一転、真剣な表情で言う香穂に、ぞくり、と深雪は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「どうしてあの高魔はそうじゃないって、わかったんですか?」
 興味深そうに訊いてくる葉月に、悪戯っぽい笑みを浮かべて香穂は答えた。
「今まで高魔と戦ってきた私の勘、かな」
 それ以上の追求を避けるかのように、香穂は話題を逸らした。
「ゆっくりしてる場合じゃないの。何のためにあいつを逃がしたのかわからなくなる」
「そうだね。頼まれたことはちゃんとやっておくから。香穂も気をつけて」
 笑顔で促す深雪に、「よろしく」と香穂は一言残して姿を消した。

 ふと、その姿が見えなくなって深雪は物憂げに息をついた。それに気づいて、葉月が声をかける。
「どうしたんですか?」
「精霊使いでも、香穂と秋くんだけよね。瞬間移動の特殊能力を持ってるの。さっきの戦いのとき、他の精霊使いが使ってるの見て、いいなあ…って思っちゃったのよね」
 羨ましそうに、さっきまでの戦いを思い出して深雪が言った。
 葉月はその頭にぽん、と優しく手を置いた。
「あれは恐らく高魔が力を与えたからで、本来使えるのは香穂さまたちだけです。でも、使えなくても何の支障もありませんよ」
 そう言いきる葉月の瞳を見つめて、深雪も思い直した。

「そうね。香穂たちだってあんまり使うの好きじゃないみたいだし」

 以前に秋と香穂が言っていた。
 空間を渡るより、自分で走ったり歩いたりする方が景色を楽しめるし。気分転換にもなれるから、瞬間移動は好きじゃない、と。

「それに、強大な力より。強力なチームワークよねっ」
 深雪は元気良くそう言うと、頷く葉月に嬉しそうに微笑んだ。


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