Word Lond
02. 日常
階下に降りて、フィアはテーブルに着く。用意されてある朝食が二人分なのを見て、台所で
パンを切っているシーナに訊いた。
「あれ、ナノさんはもう出掛けたの?」
途端、不機嫌な声が背中をむいたまま、返ってくる。
「フィア、今日は一文字でもあいつの名前をだしたら、私なにをするかわからないわよ?」
その口調に背筋に冷や汗が伝う。
今日は手伝いはいいから、座ってなさい。とその迫力のまま言われて、フィアは大人しく従った。
ナノ=レンファル、シーナの恋人で半同居状態。そう言うと、シーナはいつもただの居候よ、あいつは。と言うけれど。
シーナよりも3つ年上で、とても強くて、優しいヒト。
記憶が無くて、シーナに進められても一緒に住むということに躊躇っていたとき、遠慮することはないさ、と優しい笑顔で言ってくれた。
強い、というのは、彼がこの国を統べる皇室に反抗しているグループのリーダーだと聴いたから。シーナが話してくれたところによると、この国は最近の
皇帝の圧制に苦しまされているらしい。重税。厳罰。
―― それら故に生まれる悪事。
飢餓で死ぬ者も出だしたという。けれど、城では贅の限りを尽くしたパーティーが日夜、行われていると。
そんな政に反抗するために立ち上がったのがナノだった。
「あいつったら、朝も早くから人を叩き起こして出掛けてったのよっ!」
どんッ、とパンを盛った皿をテーブルの上に乗せて怒鳴るシーナに、いつものこと、とフィアは苦笑する。見咎めるような視線を受けて、フィアは慌てて堪えた。
「……でも、シーナが怒るほど、朝早くなんて何かあったの?」
シーナの朝は早い。それよりも早くというなら、恐らく陽も昇らないうちだったはず。疑問に思って口にした
言葉に、シーナは「さあね」と小さく肩を竦めた。
「アジトのひとつが摘発されたとか、なんとかって。そんなことだったと思うけど」
「そんなことって……。大丈夫なの?」
内容とは裏腹にやけにあっさりと言うシーナに不安げに問いかけると、曖昧な笑顔が返ってくる。
「ナノならなんとかするでしょーよ。ほら、そんな心配してる場合じゃないでしょ。
朝ごはんを食べてとっとと街に行くわよ!」
なんだかんだ言っても、結局はシーナはナノを心から信頼している。
「ナノならなんとかする」そう言える二人の強い絆が羨ましかった。とても微笑ましい。
「はーいっ」
笑顔で返事をすると、照れくさくなったのか、シーナは頬を赤く染めたままパンを一気に
半分かじって
飲み込んだ。