吹き荒む風は、責めるように身体を突き抜けていって。
飛ばされてきたなにかの欠片が、彼女の頬に傷を作っていく。
ガブリエルの領域は全て消し飛んでいた。
流れていた清らかな川も。天使たちの住まいも。城さえも、わずかに残骸が転がっているだけだった。
煙が周囲を埋め尽くし、焼け焦げた臭いが広がっていた。
天使の形をした炭が、風に運ばれてさらさらと消えていく。
その光景をガブリエルはひとり、剣を手にしたまま眺めていた。表情には一切の感情は浮かんでおらず、傍目には呆然としているようにも見てとれる。
彼女の周囲にあったせいか、枯れ花は無事だったけれど、外気に触れると音もなく溶けていった。
「これは一体どういうことだ、ガブリエル!」
ふと彼女の傍に天使が現れる。厳しい口調で眉を顰めながら。
彼の背後には、天使軍の姿があった。
「姿をくらましたと思ったら、後を継いだバービエルに嫉妬でもして、自らの領域を吹き飛ばしたとでもいうのか?!」
「…………?」
問い詰められても、ガブリエルはわけがわからない、といった瞳で、ただ自分を責める天使の顔を見つめていた。
「天界のバランスを私的な理由で壊すとは! いいか?! もう逃げられると思うな! ガブリエル ―― 天上球裁判で反逆者として、罪を問う!」
そう言うと、天使は後ろに控えていた天使軍に彼女を捕らえるよう指示した。
なにも知らない天使軍の兵士達は、同胞の命を無残に奪ったガブリエルに対して、怒りの表情さえ浮かべながら、彼女に手錠をかけた。
ガブリエルは抵抗することなく、されるがままだった。
乱暴に引っ張られて、連れて行かれる。
「アレクシエル様 ―― 、我々は先に反逆者を連れて戻ります」
「そうだな。数人は私と領域を調べるのを手伝ってくれ。もしかしたら、生き残っている者がいるかもしれない」
彼の言葉に、尊敬の念を込めて、部下は敬礼した。
そうして手早く指示していく。
アレクシエルは彼らが自分から離れるのを感じると、笑みを浮かべた。
(全て、計画通りだ。)
セラ、もうすぐ。
もうすぐ、会えるよ。今度こそ、逃がさない。
翼を広げると、アレクシエルは空へと羽ばたいた。
美しかったガブリエルの領域は、見渡すかぎりなにもかも消滅していた。
ただ風だけが、音もなく吹いている。
君を捕らえたら、ここに新しい領域でも作ろうか。
ふたりだけの ――― 、私と君のふたりしか住めない領域を。
だれも入って来れないように。だれも君を奪いにこれないように。けして、逃げられないように……。
うっとりと想像する世界で、アレクシエルは狂気を広げていった。
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