■ Red 02 ■
――― ふざけてるわっ! なにが、「先に行ってるように」よっ!!
ジープの後ろに団員たちと乗り込んでいる“レッド”は、怒りもあらわに拳を握り締めた。
周りに座っているジョージをはじめとした団員たちは、触らぬ神にたたりなし、とばかりに少し距離をとり、彼女から目をそらしていた。
いいわ……。そっちがその気なら、
「あいつが来る前に全部、終わらせてやるんだからッ!!」
怒りとやる気に燃えている“レッド”には、誰も声をかけることはできなかった。
テロリストの暗号名、C・Bは反王室派で数あるテロリストグループの中でも、有名な爆弾テロだ。公式で王室が出席する場所に爆弾を仕掛けたり、王室に味方する者たちの家や車などを爆破したり、と。大半は「Z」に阻止されるものの、今だその組織の逮捕にはいたっていない。
これまでもC・Bアジトの摘発はあったが、捕まえたのはなにも知らされていない雑魚ばかり。幹部にはいつも逃げられ、二の足を踏まされていた。
だけど、今度こそは ――――――― !!
そう考えている間にも、ジープはC・Bのアジトと思われるビルの側に来ていた。
第2下層、ラスティリア街の外れにある廃屋のビル。今は使われていないそこは、もはや瓦礫同然になっていた。
ジープから降り、音を立てないようビルへ近付き、後に続く仲間に声をかける。
「銀の騎士団からの情報によると、アジトの中にいるのは幹部あわせて26人。
こっちは10人」
全員、銃の弾を確認する。
「楽勝だろっ」
ジョージがにやりと笑って答えた。
それに頷いて、ビルに視線を向ける。
「ここの入り口は3つ。1つに2人ずつ張り込んで、残り3人は、私と一緒に突入よ!」
そう言うと、手早くジョージとクリフが団員たちを振り分けた。彼らは素早く、指示された場所へ向かう。
絶対に見つからないという余裕があるのか、ビルの周囲はもちろん。入り口にも見張りはいなかった。ビルの中から零れている明かりに影を見せないよう、入り口の脇の壁に隠れて、タイミングを狙う。
同じように銃を構えている団員たちに合図をして、“レッド”は一気に中へ入った。
「Zよ! 動かないでッ!!」
そう告げた瞬間、だが彼女は異様な光景に息を飲んだ。
(――――――っ?!)
建物の中には誰一人いなかった。
(どういういこと……?)
「おい、誰もいねぇぜ……」
ジョージも肩透かしを食らったように呆然と呟いた。
「まさか、逃げられたのか?」
驚いたようにクリフが言った。もう一人の団員も、信じられないように、目を見開いて建物内を見回していた。
不安が“レッド”に襲い掛かる。
「…………遅かったね」
ギョッとして、彼女たちが声のした方を振り向くと“レッド”たちが入ってきた入り口の横の壁にもたれて、ユウがつまらなそうな顔で立っていた。
「あ……、あんた。まさか……」
一人で捕まえたわけじゃないでしょうね!?
――― そう続けようとしたが、動揺のあまりそれ以上の言葉が出てこなかった。
だがユウは“レッド”の言いたいことがわかったのか、首を横に振り肩をすくめて答えた。
「まさか。“リーダー”の務めとして、赤の騎士団の活躍でも見ておこうかなって思って
来てみたら、誰もいないし。もう捕まえちゃったのかなって思ったら、そうでもない
みたいだし?」
おかしそうに言うユウに、“レッド”の怒りが爆発する。
「あんたねぇ……!!」
掴み掛かろうとした“レッド”を、側にいたクリフが慌てて止めた。
「だめだっ、」
羽交い締めにされた“レッド”をよそに、ジョージはニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべ、“リーダー”に近寄った。
「お嬢ちゃん、来るべき場所を間違えてるぜ。あいにくここは遊園地じゃないし、俺らは
あんたと遊んであげられるほど、暇じゃないんだよ」
からかうような口調に、ユウはにっこりと笑顔を見せる。その笑顔は例えるなら天使のように愛らしく、団員たちは(“レッド”までが)一瞬、言葉を失った。
だがすぐに気を取り直して、ジョージは続けた。
「わ、わかったら、“リーダー”の座はさっさと降りて、ママかパパの所にでもかえんな」
「そう ――――― 」
頷きながらも、ユウは懐から銃を取り出した。
「私もあなたと遊んでいられるほど、暇じゃないのよね」
そう言いながら、ユウは銃口をジョージに向けて構えた。
「……気でも狂ったの!? 仲間に銃を向けるなんて!!」
思いもしなかった彼女の行動に“レッド”が叫ぶ。ユウはそんな彼女を無視して、さらに言った。
「ましてスパイごっこなんて、ね」
さらりと言われた言葉を把握するのに、“レッド”は時間がかかった。
「スパイ……ごっこ……?」
どういう……意味 ―――――― ?
嫌な予感を覚えた瞬間、“レッド”を抑えていたクリフの力が強まった。
「なるほど、ジョージ。どうやら、俺たちのことがばれたらしい」
「……へっ、みたいだな」
それに答えて、ジョージが面白くなさそうに舌打ちする。
「なっ、ジョ…ジョージ? ……クリフ?」
驚きに混乱する彼女に、ユウは呆れたように言った。
「まだわかんない? 彼らは、C・Bの一員だって。つまり、ここの襲撃もバレてたってこと」
ジョージが―――C・Bの一員? そんなこと……っ、
「だって、彼は見習いのときからの仲間なのよ! たわごと言わないでッ!!」
「……って言われても、彼らは認めるみたいよ?」
ユウは困ったような表情を浮かべた。
“レッド”は信じられずに、クリフの顔を見て聞こうとしたが、振り向こうとした瞬間、抑えられている腕をさらに強く握られ、彼の銃口が頭に押し付けられる。
(いっ……痛い!)
悲鳴さえ上げなかったものの、腕が折れてしまいそうな感覚を覚えた。
「まあな。そろそろやばいとは思ってたんでね。どっちにしろ今夜で、抜けるつもり
だったのさ」
「わりぃな、“レッド”。俺たち3人は裏切り者ってことよ」
クリフが言うと、ジョージもさらに嬉しそうに告げる。
愕然とした思いに支配された“レッド”は、絶望の中で彼らの笑い声を聞いた。
「さて、お嬢ちゃん。銃を渡してもらおうか?」
“レッド”に銃口を向けているクリフは、カチリと安全装置をはずす。ジョージも、いつのまにか“レッド”から奪っていた銃をユウに向けていた。もう一人も同じように、銃を構えている。
そんな彼らを見まわすと、ユウは仕方なさそうにため息をついて銃を渡した。