■ Red 03 ■
……俺は許せなかったんだ。
女のあんたが“レッド”になり、生意気に命令を下すのが。
そのうえ“リーダー”までが女で、しかも13のガキときた。冗談じゃねえ。
そんな中で働くくらいなら、テロリストにでもなっちまった方がイイって思ったのさ。
C・Bの一員になって、摘発の情報を流せば金にもなるしな。
もっとも、赤の騎士団にもたらされる情報しか無理だったよ。ほかんとこは結束が堅くってねぇ。だが、赤の騎士団には俺と同じ意見をもってた奴がいた。
外で見張ってる6人の奴らは、なんにも知らねぇがな。
「……っ、――――― ううっ」
縄で縛られ、口も布で抑えられた“レッド”はなにも言えず、ただ悔しそうにジョージたちを睨み付けた。
「この爆弾は、10分後にセットしてある。まっ、せいぜい自分の甘さを後悔するんだな」
クリフは彼女たちの側に爆弾をセットして、立ちあがった。
チッ、チッ、……時計が秒読みを開始するのを確認すると、ジョージは手を振って彼女たちに背を向けた。
「じゃぁな、“レッド”。それにお嬢ちゃん」
彼らがビルを出ると、入り口に仕掛けていた3つの小型爆弾が同時に爆発した。それによってできた瓦礫で、入り口が封鎖され“レッド“たちがいる場所は完全に密室と化した。
(もう、終わりね……。)
その様子を呆然と見ていた“レッド”は、やがて深くうなだれた。
思いがけない仲間の裏切り ―――― それは彼女の中に絶望を生み出した。だが全てがその感情に支配される前に、“レッド”は怒りを覚えた。
確かに、彼らの言い分はわかる。おそらくそれは、私が“リーダー”に抱いた思いと一緒だったのだろう。自分より年下の者に従わなければならない悔しさ。プライドを粉々にされるかのような、惨めな気持ち。
だけど……、だからといってこんなやり方は理解できない。どうして、見返そうとしないの!? あんな奴はふさわしくないんだと。自分こそが ―――― と思うなら尚更。
正々堂々と戦うなら、何度だって相手になったのに……どうして!?
それで私が負けたなら(そりゃあ多少は悔しいけど)、素直に“レッド”の称号は渡したのに……!!
どうしてこんな卑怯なやり方を……どうして!!
「うっ…う……」
怒りのあまり“レッド”の瞳からは、涙がこぼれ落ちた。
…………プツッ、
その瞬間、少し間の抜けたような音が聞こえた。
「……?」
“レッド”は不意に手が軽くなったことに気づく。
「うーん、やっぱり小型ナイフは携帯しといて正解だったかなぁ」
縄を切ったユウは、退屈そうに言うとパン、パンっと手を払って立ち上がった。
「なにしてるの? 縄は解いたわよ。早くその猿ぐつわはずせば?」
呆然としている“レッド”を、ユウは笑みを浮かべて見下ろした。猿ぐつわをとりながらも、まだ何が起こったのかわからず座り込んだままの“レッド”を無視して、ユウは建物の中を見まわした。
「さて、と……。どうやって出ようかな」
入り口は全て瓦礫でふさがれている。爆弾も6分を切っていた。
「……もう、絶体絶命だわよ……」
ユウは落ち込む彼女を励まそうと口を開いた瞬間、逆に“レッド”を突き飛ばしていた。
「キャ……ッ!」
突き飛ばされた“レッド”はその反動で頭をぶつける。
ぶつけたところを抑えながら立ち上がり、ユウに文句を言おうとして ―――― 絶句した。
今まで自分が座っていた場所は、瓦礫で埋まっていた。
さっきの小型爆弾の影響で、天井から落ちてきたのだろう。そのままそこにいれば、頭をぶつけるだけではすまなかった。完璧に下敷きになっていたはず……。
ゾッ、とした彼女は気づいた。
自分を突き飛ばしたユウの姿が見えないことに ―――――
「“リーダー”!?」
まさか、まさか……。私のかわりにっ!?
瓦礫の山を見ながら、“レッド”は愕然としながら彼女を呼んだ。
「返事してよ! ……ちょっと、ねぇ!!」
嘘でしょうっ!
不安と混乱に陥りかけた時、瓦礫の向こうから声が聞こえた。
「――――― っ! ……ここ、心配ないって」
安心させるかのような口調に、ひとまずほっ、と胸を撫で下ろし瓦礫を回って彼女の側に向かう。ユウはコンクリートの床に座り込んでいた。
「……どうしたの?」
声をかけると、彼女は“レッド”を見上げた。
「おかげで、いいもの見つけたの」
そう言いながら、コンクリートの埃を払う。すると、そこにはマンホールのふたが現れた。
「私ちょっと疲れてるから、ここ開けてくんない?」
その言い方に多少ムッ、ときたが今は言い争いをしてる場合じゃない。そう判断して、なんとか両手で蓋をずらす。
「先、行くね」
「あっ……ちょっと!」
ユウははしごを伝って降りていった。
(なによ……。また私が閉めなくちゃならないじゃない!)
不満そうな顔をしながらも、“レッド”は急いで中に入り、蓋を閉める。完全に暗闇に支配された中を、落ちないように降りきった所でユウが待っていた。
暗くて、その顔は見えない。先に行ったことを抗議しようとしたとき、ユウはポケットからライターを出して火をつけた。
「こっちよ」
一言だけいって、スタスタと歩いていく。抗議のタイミングを逃した”レッド”は、仕方なくその後をついていった。
その時、上からものすごい爆発音が響く。
「――――!!」
しかし、幸いにも下水道の中には何の影響もなかった。
セーフだわ……。
“レッド”は、自分たちの幸運に息をついた。