11. フェアリープリンセス

2007年11月07日

00 理不尽なお茶会(02):(11/フェアリー~)

 「よりにもよって……、ラヴオールドウォーターだって?」
 腹を抱えて笑って言うギルを呆れた目で見やって、すぐに隣で「の」の字を書いている執事に視線を向けた。長く白い耳は悲しげに項垂れている。話しかけないで下さい、と背中に書いてある雰囲気を感じ取って溜息をついた。仕方がないので、再び自分で淹れた紅茶の入ったカップに口をつける。湯気とともに匂う香りと、あっさりとした味はムカつく気持ちを宥めてくれるような気がした。

 「けど、ふうん」
 それまで笑っていたギルはやがて興味深そうに見つめてきた。薄い銀髪の髪がさらりと風に揺れて、琥珀の瞳に好奇心に満ちた光が浮かんでいる。整った容貌は、執事にも劣らない。つと、視線を落とすと彼のふさふさの尻尾が楽しげに動いていた。
 「おまえの恋年齢って随分と幼いんだなーと思って」
 「悪かったわね。恋するほどの男が此処にはいないから」
 ふんっ、と鼻で笑って、ギルの視線から逃れるように、瞼を伏せた。何かもの言いたげな視線は変わらずに注がれて、誤魔化すようにテーブルの上にあるクッキーに手を伸ばした。伸ばそうとした。その瞬間、それまで蹲っていた執事が勢いをつけて立ち上がる。

 「恥ずかしがることはありません!」

 その声の大きさにびっくりして、手を止めて視線を向ける。

 「先日僕が飲んだときは乳飲み子になって ――― ぐふ!」
 「全然フォローになってないわっ!!」
 叫ぶと同時に、はっと気づいたときには遅かった。自分の右手に持っていたはずのカップがない。なんてこったい。そう思って恐る恐るその行方を捜すと、執事の額に見事ヒットしていた。ちゃりん、とカップはひび割れて、地面に落ちる。ついでに執事もがくん、と地面に倒れ伏してしまった。
 「……茶の代わり、いるか?」
 空いていた他のカップを差し出され、それを受け取ろうとしてやめた。いいわ、と断ってから、頬杖をつこうとして、イマ自分の姿が幼女だったと思い出し、背もたれに深くもたれるだけにした。
 差し出したカップを意味ありげに見つめ、仕方なし、ギルはそれを自分で飲み干す。苦笑して、呟いた。
 「報われないな、お互い」
 それは聞こえなかったフリをして、ふと思い出したことを口にする。
 「そういえば、明後日からエント・ファームの妖精たちがお祭りをするんだったわ。呼ばれてるのよね」
 「あそこ、まだ住んでるのか? 人間たちが踏み込んできただろう?」
 ギルが怪訝そうな顔つきで言う。反対側の椅子に座って、足を組む。ふさふさの尻尾は、椅子から少し横にはみ出ていた。
 「招待状が来てたもの。様子を見に行ってみるわ。お母様たちはどうせ、手が回らないでしょうし」
 肩を竦める。ギルは考え込むように顎に手を添えていたが、やがてちらりと視線を落としてきた。
 「……その姿でか?」
 現実を突きつけられて、言わないでよ、と不満そうに雰囲気を露わにしてから、いまだ地面に倒れ伏したまま、現実逃避をしている執事を睨みつけた。