04.Step by Step

2010年07月19日

Step0:さよなら、初恋(Step by Step)

Scene0

 王子様とお姫様が結ばれる。めでたし、めでたし。
 わたしの初恋はそんなふうに、終わりを告げた。
 意地悪ができるような女性じゃなかったし、ライバルになれるほど自信もなくて、わたしにできるのは、大切な幼馴染の背中を押してあげることだけだった。
 最初から夢を見ているだけだと、わかっていたから。
 ――ぽつり。
 頬に当たった冷たい雫に、顔を上げる。
 数時間前までは、恨めしいくらいに晴れ渡っていたのに。
(飛行機は大丈夫だよね?)
 もうすでに国外へ出て行っているはず。
 ぽつぽつ、と降り始めた雨に、目を細める。優しくて、甘い声が脳裏に聞こえてきた。
『……みー。ありがとう』
 いつも見ていたいと思っていた笑顔を曇らせないように。平凡なわたしができるのは、いつもそれだけだったから。
『お礼はいらないよ。星ちゃんが幸せになってくれれば私もシアワセ!』
『みー……』
『だから、いってらっしゃい!』
 ほんとうは、一緒に幸せになりたかった。
 星ちゃんとなら、そうできるって思ってた。
「……っ!」
 ぜんぶ、流れていってしまえばいい。
 かれの甘い声も、わたしだけにくれていた優しさも笑顔も、ずっと育ててきたわたしの想いも、ぜんぶ。
 ――ぜんぶ、流れて。そうして。

 さよなら、わたしの初恋。