2010年07月19日
Step0:さよなら、初恋(Step by Step)
Scene0
王子様とお姫様が結ばれる。めでたし、めでたし。
わたしの初恋はそんなふうに、終わりを告げた。
意地悪ができるような女性じゃなかったし、ライバルになれるほど自信もなくて、わたしにできるのは、大切な幼馴染の背中を押してあげることだけだった。
最初から夢を見ているだけだと、わかっていたから。
――ぽつり。
頬に当たった冷たい雫に、顔を上げる。
数時間前までは、恨めしいくらいに晴れ渡っていたのに。
(飛行機は大丈夫だよね?)
もうすでに国外へ出て行っているはず。
ぽつぽつ、と降り始めた雨に、目を細める。優しくて、甘い声が脳裏に聞こえてきた。
『……みー。ありがとう』
いつも見ていたいと思っていた笑顔を曇らせないように。平凡なわたしができるのは、いつもそれだけだったから。
『お礼はいらないよ。星ちゃんが幸せになってくれれば私もシアワセ!』
『みー……』
『だから、いってらっしゃい!』
ほんとうは、一緒に幸せになりたかった。
星ちゃんとなら、そうできるって思ってた。
「……っ!」
ぜんぶ、流れていってしまえばいい。
かれの甘い声も、わたしだけにくれていた優しさも笑顔も、ずっと育ててきたわたしの想いも、ぜんぶ。
――ぜんぶ、流れて。そうして。
さよなら、わたしの初恋。
- by 羽月ゆう