13. 見果てぬ夢(仮)

2010年06月14日

01:始まりの朝(7)>見果てぬ夢(仮)

 ダイニングのテーブルに悠貴とどうにか作った朝食を並べる。出来がいいとは言えないまでも、焦げ付いたものもなく、初めてにしては上出来です、と悠貴に保証を貰った。

 なにより嬉しいのは。

「わぁ、キリちゃんっ。美味しいよ!」
 卵焼きを口いっぱいに放り込んで食べた陽菜が目を輝かせてくれる姿に温かい想いで胸が満たされていく。
 自分でも、卵焼きを箸で取る。あの部屋で出されていた卵焼きはキレイに焼かれていたけれど、霧華のは少し焦げ目がついていた。陽菜の言葉に勇気付けられて、思い切って食べてみる。
 はっきりいって味は、作られていたものと比べ物にならない。だけど、自分で作ったものを食べると、自然と頬が緩むのがわかった。嬉しくなる。
「ねっ、美味しいね!」
 隣で笑いかけてくる陽菜に頷き返す。
「まっ、初めてにしては上出来じゃん?」
 巴も一口でひとつ丸ごと頬張り、にやりと笑う。
「巴……」
「思い出すよなぁ、悠貴の初めての料理。あの黒焦げの料理に比べたら……」
 悠貴の咎めるような視線を受けながらも、巴が意味ありげな口調で言う。その言葉に陽菜が目を瞠る。
「えっ、ゆーくんって意外に不器用なの?!」
 うんうん、と頷く巴を見て霧華も驚いた。
「教え方はわかりやすいし、上手にできたのに?」
「そりゃあ、明の特訓の賜物だな。教えてもらえばわかると思うけど、あいつのが教え方は上手いぜ。料理もプロ級だ」
 得意げに話す巴の顔は弟を誇りに思う、兄の顔になっていた。その姿は微笑ましくて。霧華もきっと陽菜の話しを誰かにするときは同じような顔をしているんだろうな、と思った。大切で、とても愛しくて。
 ふと、悠貴に視線を移すと、彼は少し寂しげに目を伏せていた。ハッと霧華の視線に気づいて、すぐにその感情を押し隠してしまう。
 どうしてそんな顔をするの、と問いかけようとした言葉は、静かな光を湛える金色の瞳に見つめられ、呑み込んでしまった。全てを拒むかのような、表情のない顔。それは少し、零くんを思い出させる。

「――さて。世間話も結構ですが、なによりこれから先の話をしておきましょう。相手は白銀の双頭です。先に動いておかなければ、容易く身動きを封じられてしまいますからね」
 唐突に変わった話題の矛先に、巴も陽菜も不思議そうに首を傾けるものの、彼が言うことが確かに優先事項になるため、頷いた。霧華も悠貴の表情に引っ掛かるものを感じながら、それでも頷いて、視線をダイニングの扉に向ける。明の気配を感じたからで、すぐに玄関が開き、彼が姿を現した。白いTシャツに半袖のジャケットを羽織っていて、急いでいたのか髪が乱れている。それに構わず、明は悠貴に片手に持っていた茶色い封筒を差し出した。大きさはA4サイズ。
「遅くなりました。書類はこのなかに、全部揃っているそうです」
「あぁ、ありがとうございます。朝から大変な役目を押し付けてしまって申し訳なかったですね」
 悠貴が封筒を受け取りながら謝罪すると、明は慌てたように首を振った。
「とんでもない! 元はと言えばアニキが寝坊なのが悪いんですっ。本当はアニキが取りにいくはずだったのにっ!」
「うるせー。悠貴のために働きたいという明の願いをかなえるために、わざと寝坊したんだよ!」
「――そう言うわりに、巴はいつも寝坊してるじゃないですか」
 巴の言葉はあっさり悠貴に一蹴された。