11. フェアリープリンセス

2007年11月16日

01:伯爵と小さな女の子(02):(11/フェアリー~)

 エント・ファームの地は広大な森と丘しかない場所だったが、それこそ妖精の好む土地柄で、昔ここには様々な妖精たちが棲んでいた。妖精たちが物の売り買いをする妖精市場などという滅多にないものまであるのもここ特有の名物だった。しかし、それもこの地に人間が城を作り出すまでは、の話。森を切り開いて、道を作り馬車が行き交うようになった。丘には、城が作られ人間たちが訪れるようになると、妖精たちは危険を感じて市場を閉鎖し、ある者は森の更に奥地へ。嫌気が指したものは妖精界へと姿を消した。人間に興味を持った者、或いは悪さを働こうと企む者達だけがこの地に残った。その数も種類も、人間たちの妖精を信じないという、傲慢で横暴な遣り方に数は減少していくばかり。
 それでも、昔ながらのこの場所を古の土地と愛する妖精たちはいる。その妖精たちを慰めるためにも、ミレは招待されたお祭りに参加しようと心に決めた。
 ――― それなのに。
 「ミレ、俺から離れるなよ。嫌な予感がする」
 一緒に歩いてきたギルが隣で警戒心を露わに言う。狼姿に変化した彼は、銀色の艶やかな毛並みを逆立てていた。琥珀の瞳が鋭く周囲を見回す。
 「大丈夫ですよ!ここは一応まだ妖精の地ですよ。ミレ様を傷つけるような不届き者がいるはずありませんっ」
 そう呑気に喋るのは、ギルとは反対側に立つ執事だった。ひょこひょこと耳がせわしなく動いている。その緊張感の欠片もない口調に、ギルと顔を見合わせた。相変わらず、鈍感。ミレは溜息を飲み込んで、ギルはこれ見よがしに大きく息をついた。