09. トキモリ助手の事件簿

2007年11月05日

01. 依頼人(2):(トキモリ~)

 一言で表すなら清楚。胸辺りまで流れ落ちる艶やかな黒髪。対象的に肌は白い。柔らかな印象を受ける黒いつぶらな瞳。長い睫毛。小さめの鼻にふっくらっした朱い唇。手足も焦げ茶色の半袖ワンピースからほっそりと伸びている。風に吹かれたら倒れそうな儚い印象を受けた。
  「……あ、あの?」
 怪訝そうに問いかけられて、扉の前で突っ立っていた僕は我に返った。
 「あっ、すみません。どうぞ中へ」
 「はい。有難うございます」
 まじまじと見つめてしまったにも関わらず、女性はにっこりと穏やかに微笑んでくれた。どきりと、その優しい笑顔に胸が高鳴ってしまう。それを誤魔化すように室内へと促した。

 「所長、お客さんですよ」

 彼女を連れ添って、いまだえんどう豆のサヤヌキに格闘しているだろう所長のもとに向かう。しかし、机の上にあったはずのボールはすでに片付けられていて、わざとらしく真ん中には大量の書類が置かれてあった。ごほんと小さく咳払いをして、所長は立ち上がる。
 「ようこそ、川中子探偵事務所へ。どのようなご依頼でしょう?」
 さっきまでの怠惰な様子は微塵もなく、驚くほど隙のない雰囲気でそう言った。
 ( ――― いつものことながら。)
 仕事にはあくまで真摯に向かうこの二重人格探偵を、僕はやっぱりそれなりに尊敬している。
 トキモリ君、お茶。よろしくね、と視線で訴えかけてくる所長にむかつきながらも。