2007年11月01日
序章:怜悧な刃物(2)
それが復讐だったのか、過去の残像から逃れる彼女のたったひとつの方法だったのか僕にはわからない。ただ、最後まで彼女は生きる中での幸せを見つけることができなかったということだけが事実だった。
――― 取り出されたナイフの刃は冷たく鋭い煌めきに歪んでいた。ツカを持つ手は赤に塗れて異様な臭いが空気を染めても震えてすらいなかった。しっかりと握りしめられてそこに彼女の決意がみえる。後悔していないという真っ直ぐな意思が周囲にいた者たちを押し黙らせていた。
「……これはあなたが引き起こしたことなの。逃げるなんて許さないわ」
ぞっとした。
感情を一切削ぎ落とされた声は、寒気を走らせてすべてを終わらせた。
- by 羽月ゆう