03. 巡る恋唄

2007年11月01日

序章(2)

 水鏡を前にして、映し出される少女の姿に淡い水色に染まる着物を身につけている女性は、悔しげに歯噛みする。苛ただしげに持っていた扇子で水鏡をぱしんっ、と叩き付けた。

 「おのれっ。鬼を狩る者めっ。所詮は人の子でありながらよくも!」

 暗闇に照らし出される琥珀の目は、怒りの炎で燃えていた。そこにあるのは、敵であることへの憎悪だけでなく、嫉妬。
 一度死に、また現れるとは。なんとも悔しいことか。我こそが首領の封印を解き、必ずこの手に取り戻すと誓ったのに。あの娘はまた邪魔をしようと姿を現した。

 「 ――― 許すまじっ!」
 今度こそ、その姿さえも。魂さえも、滅茶苦茶にしてやる。二度と生きて現れることがないように。傷つけ、滅ぼし ―― そうしてこそ、気持ちが救われる。
娘の身体が切り裂かれる姿を想像して、ようやく心が落ち着いていく。その為にも、けして逃れられぬように罠を張り巡らせねばならない。そう思案して、女性の美しい顔に愉悦の笑みが広がった。