01. short story

2009年10月25日

Scene1:ひとかけら

 殺したい、殺したい。
 溢れてくる憎悪は果てしなく募り続けて、胸の中でその解放を待って燻り続けているのに、唇から零れる溜息は、それとはまるで逆位置にある愛おしさの欠片なのだとそう言ったら、彼女は信じるだろうか。佳人が語るように憎しみと愛は紙一重なのだと言い切ることは出来ない。確かに彼女を前にすると、憎しみが堪えきれずに溢れてくるし、激しい憎悪はそれだけでしかない。殺したいと、より強い望みにしかならない。

 ――― だけど。

 その顔を見て胸が歓喜に包まれる。心が彼女を求めていたことを知る。誰よりも会いたかったのだと告げる。その喜びは、憎悪だけに支配されているはずの自らの心の、彼女へ向けるほんの一欠けらの愛情のようなもの。それは心の中に募るものでも、燻るものでもないから、甘い溜息となって、零れ落ちてしまうのだ。 

 もちろん、言葉にするわけもなく、そんなこと気づかせもしない。ただ、手に持った剣を振りかざして、今もなお、胸の中に募り続ける憎悪だけをぶつけることに集中する。

 彼女が屍になった、そのときには、そこには愛もあったのだと正直に打ち明けよう。

 たとえ、ほんの一欠けらだったとしても。