13. 見果てぬ夢(仮)

2010年02月25日

01:始まりの朝(4)

「……イチ。そろそろ、いいだろ」
 どれくらいの時間経ったのか、意識を失う寸前にそう声が聞こえた。それを合図にして、全身を襲っていた電撃のようなものが消える。自分がどんな状態でいるのかもわからず、ただ叫び続けてたせいで、喉がひりひりと痛んでいることだけが感じられた。全身には力が入らず、目を開けることさえ億劫でぐったりとなる。
 さらり、と髪に触られて優しく撫でられた。どっちの手だろう、と一瞬考えて、すぐにどっちでも同じだと考えることを放棄する。痛みで流した涙の跡に、苦しくて悲しくて溢れ出した涙が零れる。
「霧華」
 顔にはでないけれど、目を閉じていればわかる。名前を囁く声は優しい。それなのに、告げられる言葉は胸を突き刺す。
「おまえは特別だが――自分の行動には責任を持て。おまえが逆らわなかったら、俺達もこんなことをしなくてすむんだ」
「そうだよ、霧ちゃん。僕たちから逃げられるなんて考えるだけムダなんだよ。君は永遠に僕たちのものなんだから」
 永遠に――――。

「――っ!」
 目を開けると、見慣れない天井が目に入った。いつも見上げていたのは間接照明が薄ぼんやりと照らしていた天井。今は、暗闇に閉ざされていて、ふと隣を見れば、陽菜の寝顔があった。愛おしい存在は規則正しい寝息や温もりを感じても夢を見ているようで。
 息苦しさを感じて、自分が息を止めていたことに気づいた。喉元を手で抑えてはっと息を吐く。息苦しさが治まると今度は、手のひやりとした冷たさを感じて慌てて喉から放した。
 今もまだ、あの環がついている気がして手首を見る。
 なにもついてないことを確認して、ほっと胸を撫で下ろした。
「っ、きり……ちゃ、……だぁいす……きぃ」
 聞こえてきた声に視線を向ける。
 んーっ、と言いながら陽菜がぎゅぅっと抱きついてきて、胸が苦しくなった。
(大丈夫――もう、大丈夫でしょ。)
 強く言い聞かせて、陽菜の頭をそっと撫でがら、やわらかな頬に口付ける。
「私も大好きだよ、陽菜」
 夢の中にいる陽菜にも聞こえたのか、ただの偶然かもしれないけれど、彼女の顔がへにゃりと笑顔になって、思わず頬が緩む。愛おしい気持ちが溢れてきて、泣きたくなった。