13. 見果てぬ夢(仮)

2012年07月31日

02:幸せの在処(2)>見果てぬ夢(仮)

 巴さんも素敵な男性だと思う。
 粗野なように見えて、学園生活に不便がないようにいろんなことを教えてくれた。友達ができるように、私の学園生活の話しから、アドバイスしてくれたりもして、今までずっと独りだった霧香の他の子達とは違う、ズレた視点が目立つことなく、打ち解けるようになったのは、巴さんのおかげだと思ってる。

「なーんて、ほんとはわかってるの」
 少しからかい混じりの陽子さんの口調にハッと顔を向ける。
 優しさの滲む横顔は、幼い頃から霧香の言葉にできないなにもかもを理解して、何も心配いらないとギュッと抱きしめてくれていたあの頃のまま。
 まるで会えなくなった時間なんてなかったように、陽子さんは変わらない。

「……悠貴」

「えっ?!」

「霧香が恋しているのは悠貴でしょ」
「――っ!」
 一気に頬が熱くなる。
 そっ、そんなはっきり言わなくても!
 焦りながらも、さっき――本当についさっき、自分でも自覚した想いに嘘をついたり否定したりできるはずもなく。

「だっ、だめ…?」
 巴が完全否定されたために、思わず恐る恐る問いかける。
 ふっと笑みを浮かべ、ちらりと視線を向けられた。

 どきりと胸が鳴る。

「悠貴はいい男だと思うわ」
 認めるような言い方にホッと胸を撫で下ろした。
 とん、と長い爪で私の頭を小突くと、でもね、と続ける。

「彼の立場にしても、彼自身にしても複雑なものを抱えているのよ」

 それはわかる。
 学園の理事やあのマンションにしても、乗っている車や彼の身だしなみ一つ、巴さんたちとの会話の内容の端々に聞こえる仕事の内容や操作する金額などから、彼がトップに立つだろう人間だと想像できた。

 零くんを見てきたからもあるけれど、彼自身が抱える威圧感ーー人間としての重みのようなものが、一般の人間とは明らかに違う。

「陽子さん、どうして悠貴さんは私を助けてくれたの? 上流階級の人間なら、白銀一族を敵に回
そうなんて思わないはずでしょ。いくら陽菜や陽子さんに頼まれたからって」

 白銀の双頭。その敬称はただの比喩なんかじゃない。
 世界規模の数多ある会社を纏めあげ、なお実績を高めている。若いながら見くびられることなくトップを治めているのは、白銀零の威厳や物事を見極める判断力、回転の速い会話や相手を唸らせ
る説得力などずば抜けたコミュニケーション力をも持っていて、双子の一紀は裏から支える頭脳派
で、一つの材料から彼はすべてを知り尽くすことができ、忘れることのない記憶力も持っている。

 相手へのリサーチを完璧にできることもあり、誰が相手であっても好かれる性質も兼ね合わせ、彼
の敵は世界の敵、とも言われてしまうとの噂もあるらしい。

 もし、あの二人に悠貴さんのことを気づかれたら……。

「――わたし、どうしよう。今更だけど、みんなに何かあったら……!」

「本当に今更よ、霧香。悠貴が決断した理由はわからないけど、みんなそんなこと覚悟してあなたを助けたの。立場的には悠貴は白銀一族に匹敵する財閥のおぼっちゃまだから、彼らも下手には手を出せないとは思うけどね。それに、――一応は陽菜もいるし」
「陽菜?」
 思いもかけない名前に、首を傾げる。
「あの子は一応、愛人の子とはいえ、先代から正式な姫の称号を得た白銀一族のひとりよ。それだけで、守れるものもあるわ」